課題
染色工程のカラー判定は、CCM(Computer Color Matching)装置と人の目視という二つの方法で行われます。問題は、その二つがしばしば食い違うことでした。CCMで同一と出ても、目視では実際の色が異なる場合が発生します。CCMが測定する色要素の誤差値を信頼しにくく、結局最終判定は人の目に委ねられていました。非効率であり、何より判定が一貫しません。不合格であれば修正レシピを作成し、染色をやり直す必要がありました。
収集データ
染色設備PLC、CCM検査設備PLC、物量情報のPC入力を通じて、設備・品質・物量データを確保しました。染色稼働長、設備温度の実際値(TRD_TEMP_PV)、設備速度(TRD_SPEED1)、染色色差DEなど13個の変数を分析に使用しています。データ件数は合計約3,181万件、データセット総量は157MBです。
適用モジュール
XGBoost回帰アルゴリズムで染色色差を予測するモデルを構築しました。ブースティング系であるため学習と予測が速く、過学習の正則化機能を備えているため、現場データのばらつきに対しても比較的安定します。予測モデルとあわせて変数重要度分析を実施し、どの条件が色差にどれだけ作用するかを確認しました。
成果
染色工程の色差を事前に予測できることを確認しました。工程が進行する途中で設備の運転条件と染色物量条件を根拠に品質を予測できるようになり、検査結果を待つ代わりにデータに基づいて品質を管理する根拠が整いました。変数重要度分析は、カラー不良がなぜ発生したのかを説明する材料になります。
測定器と目が違うことを言うとき
染色工程においてカラーは合格と不合格を分ける基準です。ところが、その基準を測る方法が二つあり、二つはしばしば食い違いました。
CCM(Computer Color Matching) は色を数値で測定する装置です。ところがCCMが「同じ」と判定した生地を人が見ると違って見えることがありました。一度ではなく、繰り返し。
そのため現場はCCMの数値を参考にとどめ、最終判定は目視に委ねる方式で運営されていました。一次検査者が見て、難しければ二次判別に回し、合格した製品も最終的に顧客からカラー判定を受けます。
この構造には二つのコストがあります。判定に人の時間が投入され続けること、そして判定基準が人によって変わることです。
色が決まる瞬間をデータに
染色工程は次のように進みます。染料と助剤を自動化システムでレシピの標準量だけ染色機へ送り、水と生地を投入したうえで温度と時間を制御し、生地に色を入れます。
つまり色は設備の運転条件が生み出す結果です。温度がどのように上がりどれだけ維持されたか、設備がどの速度で回ったか、物量がどれだけだったかが最終的な色を決めます。
であれば、それらの条件から色差を予測できるはずです。染色設備PLCとCCM検査設備PLC、物量情報をまとめて13個の変数を抽出しました。染色稼働長、設備温度の実際値、設備速度、そして結果値である染色色差DE。データは約3,181万件集まりました。
XGBoostを選んだ理由
色差の予測にはXGBoost回帰を用いました。
ブースティングは、弱い予測モデルが出した誤差に重みを置き、その誤差を次のモデルが引き継いで補正する方式です。間違えた部分に食い下がり続ける構造なので精度が上がります。
XGBoostはこれに並列学習と過学習の正則化を加えた実装です。現場データは特定の条件に偏っている場合が多く、正則化機能があることで、学習データにだけ合致するモデルになることを抑制します。
予測より重要だったこと
分析の結果、染色色差を事前に予測できることを確認しました。工程を終えてCCMにかける前に、進行中の条件だけで結果を見積もれるという意味です。
ただし、この事例でより意味があったのは変数重要度分析です。どの条件が色差にどれだけ作用するかが数値で出ます。
カラー不良が発生したとき、「なぜ発生したのか」に答えられる材料ができるということです。目視判定は結果を伝えるだけで、原因を教えてはくれません。原因がわかってはじめてレシピを直し、次のLOTで同じ不良を避けられます。
残る話
この事例は「AIが人の目を代替した」という話ではありません。最終判定には依然として人がいます。
変わったのは判定の根拠です。感覚だけで説明されていたものがデータで説明されはじめると、その基準は人が変わっても残ります。